レトロ居酒屋、写ルンです、シティポップミュージック、Y2Kファッション…今やレトロブームは「昭和レトロ」に飽き足らず「平成レトロ」に突入しています。青春のすべてを平成で過ごしてきたわたし世代は、「わたしたちの平成がレトロなものになってしまったのか…」とややため息ですが、平成を彩る様々なブームやトレンドが今の若者にとっても魅力的に見えているというのは少し嬉しかったりもしています。(TOPの写真は、「写ルンです」で取った2022年の写真です。)
変化しながらも定着しつつあるレトロブームですが、実は、日本だけではなく海外でも起こっています。むしろ、海外のレトロブームの方がもっと熱狂的で、もっと盛り上がっており、もはや文化として定着してきているのではないかとも思っています。そんなレトロブームが、なぜ今の時代に巻き起こったのか、事例や考察を踏まえて考えてみたいと思います。
今の若者は言わずもがなスマホネイティブ。小さい頃からスマホを手にして、いろいろな情報に触れて生きてきました。友達とのやりとりはSNSでいつでもできて、撮りたい時に写真が撮れて、見たいものがいつでも見れる、そんな「効率化」された時代を生きています。ファストファッションが普及し、ECが拡大し、フリマサイトが手軽なものになり、手っ取り早く欲しいものが手に入りやすくなりました。今の若者は情報も消費も効率的に行われるのが当たり前の世代です。
この流れはコロナ禍でさらに加速。授業や仕事がリモートになった人も多く、さらに効率的になりました。
一方で、効率化され均一化されている社会に対して、「おもしろさ」や「たのしさ」を感じられない若者も増えてきていました。予定通りの時間にamazonが届き、spotifyでランキング上位の音楽を聴いておけば間違いなく、UBER EATSで好きな時に好きなものが食べられるだけでは満足できない人が増えてきたのです。
今の若者の思い出作りには欠かせないアイテムになってきている「写ルンです」。写ルンですだけではなく、フィルムカメラにハマる若者が増えています。スマホがあればいくらでもキレイな写真が撮れて(それこそ、一番レフ並みの画質で)、その場で写真も確認できるのに、なぜ彼らは”非効率”なフィルムカメラに魅力を感じるのでしょうか。
以前、一緒にプロジェクトをやっている学生さんと話していて、「iPhoneの写真はキレイすぎてつまらない。」と言われたことがあります。効率的に鮮明な写真が撮れても、それは記録用で思い出にはなりにくい、というのが彼女の意見でした。多くのものが効率化され、ある意味システマティックに物事が動く世界を生きているからこそ、不均一で予想外で、時には思い通りにいかないフィルムカメラに魅力を感じているんだなとわかりました。
日本の若者の間でレトロブームが巻き起こるよりも前、2020年代に入ったあたりから、海外での日本のシティポップ人気が上がってきていました。竹内まりやや山下達郎など日本のポップスが海外メディアで紹介されるようになり、この二人が夫婦であることに驚いた海外の若者が多くいたらしいです。Youtubeなどで海外からでも日本のコンテンツが見れるようになったり、多くの大物海外アーティストが日本のシティポップを評価するようになり、音楽業界の中で浸透していったことが影響していると考えられています。
しかし、それだけではなく、効率化社会を生きている世界中の若者がカセットやレコードというアナログなメディアに魅力を感じるようになり、その結果が日本のシティポップブームなのではないかと思っています。実際、日本のシティポップ以外にも、レトロブームは世界各地で巻き起こっています。レトロゲームやヴィンテージ、映画や音楽、様々なカテゴリーで起こっているレトロブームは、デジタル技術によって効率化された現代を生きる若者たちが、あえての不自由さや不均一な温もりを楽しみたいという欲求の表れなのかもしれないと感じています。