For Users

なぜドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』は連ドラの域を超越した神ドラマとなったのか。

2024.06.26

              

2024年4月15日より放送がスタートした月9ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』が6月24日に最終回を迎えました。主演に杉咲花さんを迎え、普段は映画を主な活動拠点とする若葉竜也さん、唯一無二の存在感を放つ岡山天音さんなど、圧倒的実力派俳優で固められたキャスティングで制作された本作は従来の連続ドラマの域を超越した、まさに神ドラマでした。初回放送ではX(旧Twitter)で#アンメットが世界トレンド1位を獲得。さらに国内最大級の映画やドラマ、アニメのレビューサービス「Filmarks(フィルマークス)」が行った【2024年 地上波放送の春ドラマ Filmarks初回満足度ランキング】では3位 テレビ東京『RoOT / ルート』、2位 NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』を抑え、『アンメット ある脳外科医の日記』が堂々の1位を飾りました。今期は本作を含め『くるり~誰が私と恋をした?』『366日』『9ボーダー』など、”記憶喪失もの”のドラマが5本も重なり、前代未聞のクールでした。その中で、”医療もの”、”記憶喪失もの”という今までも存在した題材の本作がなぜ連続ドラマの域を超越した神ドラマと言われるようになったのか、制作陣の裏話やドラマファンとしての見解を織り交ぜ、考察しました。

あらすじ/キャスト

 

本作は、“記憶障害の脳外科医”という前代未聞の主人公が、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく新たな医療ヒューマンドラマ。

杉咲が演じるのは、ある事故で脳を損傷し、重い後遺症を抱える脳外科医・川内ミヤビ(かわうち・みやび)。彼女は、過去2年間の記憶がなく、さらに今日のことも明日にはすべて忘れてしまう。それゆえ、医師であることを諦めかけたミヤビだったが、彼女の前に、変わり者の脳外科医・三瓶友治(さんぺい・ともはる)が現れる。空気を読まず、強引でマイペースな彼の言動によって、ミヤビは医師としても患者としても助けられ導かれていく。やがて、ミヤビの“消えた2年間の記憶”の中に隠された謎が明らかに。取り出せなくなっているミヤビの記憶の中にある大きな秘密…そして、彼女の“本当の思い”とは——。

 

杉咲花/若葉竜也/岡山天音/生田絵梨花/山谷花純/尾崎匠海(INI)/中村里帆/安井順平/野呂佳代/千葉雄大/吉瀬美智子/井浦 新/他

俳優・若葉竜也の存在

 

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

川内ミヤビ(@miyabi_kawauchi)がシェアした投稿

若葉竜也さんのご実家は大衆演劇の一座であり、幼い頃から現在35歳になるまで長い間お芝居の世界で生きてこられました。映画好きに彼を知らない人はいないと言っても過言ではないほど、それぞれの出演作品では観客の記憶に色濃く残るようなお芝居を魅せ、世界からも常に注目が集まる、まさに日本の映像業界が誇るべき存在です。2019年に公開され、週末には映画館がOLで溢れたと話題になった今泉力哉監督の、映画『愛がなんだ』では主人公・山田テルコと似た恋愛もしながらも「好きだからこそ離れる」という決断をした青年・仲原青を熱演し、映画界により広く名が知られるきっかけとなりました。中高生の頃は毎週のように映画館に通っていた私自身も、公開された少し後に『愛がなんだ』を鑑賞しました。以降1番好きな映画として変わらず私の人生の一部で居続けてくれている大切な作品になっています。これをきっかけに若葉さんの活動を追うようになり、同じく映画界で呼び声の高い仲野太賀さんとダブル主演を務めた『生きちゃった』や、今泉監督との再共演である『あの頃。』、初の単独主演作品となる『街の上で』、『愛がなんだ』で共演した成田凌さんが主演を務める『くれなずめ』など、約5年間の間に色々な顔の若葉さんを目にしてきました。主な活動拠点を映画に置き、今まで民放の連続ドラマにレギュラー出演することがほとんどなかった若葉さんが今回のドラマに出演されると報道されたことでSNSは騒然。連ドラの世界では、映画よりも厳しく迫られる日程により作業的になりがちになってしまうことや、万人受けの作品にするためにわざとらしくても説明台詞を入れなくてはならないなど、多くの妥協が生まれることを知っていた若葉さんは今までドラマ出演を避けてきたそうです。ですが、原作『アンメット ある脳外科医の日記』の実写化を決めた米田プロデューサーの熱い思いに応えたいという気持ちと、すでに主演に決まっていた杉咲花さんから直接「やるよね?」とかかってきた電話により出演を決めた若葉さん。杉咲さんとは『おちょやん』『杉咲花の撮休』『市子』に続き4度目の共演。杉咲さんについて質問された際には「いつも台本に書かれた以上のやり取りができるので、常に新鮮で。単にせりふを言っているのではなく、本人の思考から生まれた言葉のように聞こえるのが、杉咲さんのすごいところです。並大抵の努力でたどり着けるレベルではありません。きっと、いろんなものを乗り越えながらやっているのではないでしょうか。そういう意味で、うそのないすてきな俳優さんですし、僕はとても相性のいい方だと思っています。」と解答し、杉咲さんに対する圧倒的な信頼が感じられました。そして、通常は制作スタッフのみで行われる脚本会議に若葉さんも参加し、ドラマの方向性や撮影するカメラの台数など何度も打ち合わせを重ね、プライベートでは今回の出演に向けて普段触れないドラマ作品を何十本もご覧になったそうです。普段から落ち着いた口調で静かに話し、常に冷静に見える若葉さんですが、作品にかける想いは誰よりも熱く、常に最高のパフォーマンスを心掛けているとても素敵な俳優さんだということが今まで以上によく分かりました。そんな若葉さんの存在が本作の士気や質をグッと上げたことで、毎話約45分という限られた時間で視聴者に十分な満足感と、言葉にならずとも湧き上がる感動を与え、こんなにも素敵なドラマになったのでしょう。

 

『アンメット ある脳外科医の日記』に関わった最高のプロ達

 

ひとつのドラマを制作するには本当に多くの人間と膨大な時間が必要とされます。そして出演者と制作スタッフの関係性や、作品に関わる一人一人が持つ熱量などで完成されるドラマの質も大きく変わってきます。そして本作『アンメット ある脳外科医の日記』は出演者のみならず、照明さんや録音部さんなど制作スタッフさん側の職人技が大きく話題となりました。その中でも1番SNSを沸かせたのは、終盤に差し掛かった第9話。医局室にて川内先生と三瓶先生が「お疲れ様です」と挨拶を交わしたところから始まり、お気に入りのお菓子を共有したり、子供の頃の頃の話をしたり、他愛のない穏やかな時間が流れます。互いの兄弟の話から、三瓶先生はずっとせき止めていたものをそっと動かし始めるかのように亡くなってしまった重度障害者の兄のことを語り始めました。自分を含めた家族や周りの人は兄のためだと思いながら障害者施設を勧めたけれど、心のどこかではただ兄を遠ざけて見えないようにしていただけかもしれないと、今でもその心の暗闇に取り残され、光を見つけられない三瓶先生。そんな三瓶先生に対し川内先生は、光は自分の中にあったらいい、そうすればたぶん暗闇も明るく見えると思いますと川内先生らしい励ましの言葉をかけますが、これは川内先生が記憶を失う前にも言っていた言葉であると回想が入ります。そしてこの回想は2人が出会い、互いに命の光を灯し続けた南アフリカでのシーンで、三瓶先生がずっと支えにしていた言葉でした。記憶を失くしても強い感情は忘れないという本作の本質に基づき、同じ言葉をかけて、「三瓶先生は私のことを灯してくれました」と伝える川内先生。記憶を失くしても愛し続けた三瓶先生の想いは溢れ、泣き崩れるかのように2人は抱き合い涙を流しました。この一連の流れで14分間、なんとこのシーンは長回し(カメラを切らず長い時間撮影すること)の一発撮りなんです。そして最後の川内の「三瓶先生は私のことを灯してくれました」という言葉は杉咲さんのアドリブでした。『アンメット ある脳外科医の日記』制作チームには毎話圧倒されますが、このシーンは間違いなく今後のドラマ界で語り継がれる伝説です。若葉さんと杉咲さんのお芝居に圧倒され、SNSでは言葉にまとまりきらない衝撃や感動をつぶやく投稿が多くみられましたが、この伝説のシーンには画面には映らないたくさんのプロが存在しました。長回しと聞くとやはり、セリフを飛ばさず動きを完璧に把握して演技ができる演者さんの力だけに注目がいきがちですが、杉咲さんは「自分でも信じられないほど緊張しましたが、俳優がどんな動きをしても絶対に捉えてやるという熱量で重たいカメラを担ぎ続け、どこが切り取られても最高に美しい光をセッティングし、ひとつの吐息も録りこぼさないほどの気概で音を拾い、祈るように見守ってくれているスタッフさんに囲まれながら行われた撮影」、若葉さんは「照明部、撮影部、録音部、演出部という各部署が力をあわせていろんなアイデアを出して一致団結できた」「撮影前のリハーサルでは数十人のスタッフが輪になって芝居を確認して、1カットのために1時間以上セッティングして全員緊張してカメラがまわる。最高に贅沢な時間でした」と制作スタッフを含めたチーム全体で作りあげた幻の撮影だったことを明かしました。自然にアドリブがでてくるほど全身全霊で役を生きている演者さんも、どんなイレギュラーにも全力で対応する制作スタッフさん方もみなさんが素晴らしく、最高のプロでした。

 

まとめ

 

今回は2024年春クールで放送されたドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』がなぜ連続ドラマの域を超越した神ドラマと言われるようになったのか、制作陣の裏話やドラマファンとしての見解を織り交ぜ、考察しました。若葉さんと交流の深い今泉監督がカフェの店員さんとして登場したのもユーモアがあって面白かったですね!そして個人的には、普段バラエティーでいじられることが多い野呂佳代さんや、個性的なルックスから役に偏りがあるように感じる岡山天音さんが今回のような役にキャスティングされたことがすごく嬉しかったです。絶対的に実力がある方なのに世間のイメージやルックスで役が制限されてしまうのはドラマ・映画ファンとしては何よりも悔しいことなので、そういった面も含めて本作はドラマ界に新しい風を吹かせてくれたと思っています。最後、「川内先生分かりますか?」という三瓶先生の問いかけに「分かります」とだけ答えてドラマは終了しましたが、川内先生にとって眠りから覚めて三瓶先生を覚えていること、分かることはすべてであり、何よりも欲しかったものだと思います。「分かります」この5文字と表情でこんなにも繊細な感情を表現し、視聴者に伝えるだけではなく言葉にだしていない心情までも想像させるような秀逸な終わり方でした。全11話、約2か月かけて築き上げた、制作チームと視聴者の信頼があったからこそ成り立ったシーンです。毎週月曜日にそっと背中を押してくれるこのドラマのおかげで、慣れない環境や新しい世界で1週間を頑張って生きることができた人が多くいるはずです。最初から最後まであたたかく、そしてかっこよく駆け抜けた『アンメット ある脳外科医の日記』制作チームのにみなさんに感謝します!

 

Tel:03-6712-5946

 

記事:根市涼花

 

 

Social Share Buttons and Icons powered by Ultimatelysocial