本作の魅力・注目ポイントを教えてください。
八虎がお母さんに「絵を描くことが好き」と伝えるシーンが個人的に一番グッとくるのですが、それは今の世の中は自分の好きなことを好きと言いづらいような空気感、風潮があるからこそだと思っています。今の社会の風潮になんとなく合わせて、そのほうが生きやすい中で、好きなことを好きということは、彼らにとってすごく大きなことです。本来は些細なことなのに、その葛藤があるからこそとてもエモーショナルな作品にもなっていると思います。
キャストの皆様の印象を教えてください。
郷敦(眞栄田郷敦)は今回で仕事をするのが二回目だったのですが、一回目の作品がすごく悔しかった思い出として残っていたようで、ある雑誌の取材でもう一度僕とやりたいと言ってくれていました。郷敦はあまり口数が多いタイプではないので、どんなことを考えているのか、なかなか読み取りづらい部分もありますが、行動でしっかりと示してくれるので、静かだけれど黙々と絵と向き合う姿から彼の本気をすごく感じていました。それは他のキャストの皆さんも同じでした。皆さん経験も実力もあるので、それらを使って器用にこなせてしまうであろうところを、この作品に対してゼロから考えて本気で向き合ってくれていたなと感じています。
皆さんが本気で挑んでいたからこその緊張感のようなものはありましたか?
それぞれが自分の仕事に真剣に向き合ってはいましたが、ピリピリしていた訳ではなく、とてもいい緊張感が常にありました。カメラが回っていないときはみんなでアイスを食べたり、話をしたりしながら楽しく過ごしていました。
キャストの皆様や監督からの提案で生まれたシーンはありますか?
僕の場合カット割りは事前に全て決めてから撮影に挑むのですが、現場で実際にお芝居を見てみて、もっとこうしたらいいんじゃないのかなと思うと柔軟にプランを壊して再構築します。たとえば、水族館のシーンはみなさんユカちゃんの顔がみたいと思うのですが、あえてバックショットで、しかもワンテイクで撮っているんです。実際に撮ってみて、もうこれでいいな、これがいいなってなりました。文哉君も、すごく言葉を選ぶ方なので声には出しませんでしたが、とても驚いていたと思います。絵を見るという行為は、絵から何か情報を発信されるわけではなく、見る側の解釈によって感動が生まれるものです。このシーンもある種そのような受け取り方ができるので、絵を見るという行為と重なったら面白いかなというのは考えて撮っていました。
あとは、八虎と世田介が藝大の一次試験で再会するシーンでは、原作ほど二人の関係性を濃く描けていないからこそ、八虎の行動と、演じている中での心情に差が生まれてしまう部分がありました。郷敦が、「あんなに世田介に酷いこと言われたのに八虎が自分から話しかけるのは・・・」と違和感を覚えていた時に、板垣くんが、「僕が声をかけられたそうな雰囲気を出していたら話しかけやすいですか?」としゃがみ込む提案をしてくれたことで無事そのシーンを撮影することができました。それは本編でも使われていて、おかげで2時間の映画の中でリアリティーが保てたのかなと思っています。原作を映像化するというコンセプトではなく、ちゃんと映画『ブルーピリオド』というものを成立させようという話をしていてので、そういった部分でみんなの提案がすごく助けになりました。
本作の制作から撮影まで、どんな思いを込めて挑まれましたか?
一番思っていたのは、“痛み”を描きたいという部分でした。ただ「やりたいことをやるのはいいことだ」なんて伝えても嘘くさくなってしまうし、実際辛いことや苦しいことの方が多いじゃないですか。我々がしている映画作りと違って、一人で絵と向き合うのはとても孤独なことだと思うので、八虎の“痛み”もしっかりと描くのが重要なんじゃないかなと思いました。その“痛み”を二時間という限られた時間の中のどこで描くかというのはだいぶ考えました。最初は、二次試験の最後のシーンにのみ“痛み”の部分を入れていこうかなと思っていたましたが、実際編集ではその“痛み”をまぶしたりしました。きっと今の世界は、“痛み”が嫌だから器用に避けたり楽をしたりしてしまうことが多いけれど、そんな“痛み”もしっかりと描くことでその先にあるものがより効いてくるのではないかなと思っています。
本作を制作するにあたってチームではどんなイメージ共有をされていましたか?
ひとつは、「原作がこうだからこうしよう」と思考を止めてしまわないことです。決まりきったことをただこなすのではなく、現場で柔軟に動きながら作品が少しでも良くなるように努めました。また、自分のアイデアが否定されたとしても、人のアイデアを取り入れたり、自分のためではなく作品のために動くということはキャストを含めたチーム全体が意識していました。チームを作るスタッフィングの段階で、その心持ちで挑んでくれる信頼できるスタッフを集めていたので、自分自身もそんな優秀なスタッフに囲まれながら切磋琢磨して撮影に挑んでいました。
監督が思う“いい絵”とはなんですか?
生きているときは周りから酷評ばかり受けていて、唯一ピカソだけが評価していたルソーという画家がいます。ルソーの描く絵は、影の位置が変だったり、人物画のパーツがおかしかったりするのですが、それが彼の個性だと思っています。その人なりの考え方、見え方が反映されている絵が“いい絵”なのではないかなと思います。人がかっこ悪いというものをかっこいいと思ったっていいし、でもそこから勉強して知識を蓄えるとまたきっと違った見え方もあるので、勉強するということも重要だと思います。
Z世代に本作を通して伝えたいことはなんですか?
本作は受験がテーマになっていて、大きな夢を叶えるだとか、この先その職業について成功するだとかそんな壮大なものではないんです。ただ好きなことをやるのは普通のこと、というのを伝えたくて。なにか好きなことがあったらやればいいし、ちょっとでも興味があることがあれば人の目を気にせず、挑戦してほしいなと思います。それは自分の視野や未来が広がることにも繋がっていくはずです。本作がそんな一歩を後押しできるきっかけになれば嬉しいです。
8月9日公開 映画『ブルーピリオド』
眞栄田郷敦
高橋文哉 板垣李光人 桜田ひより
中島セナ 秋谷郁甫 兵頭功海 三浦誠己 やす(ずん)
石田ひかり 江口のりこ
薬師丸ひろ子
原作:山口つばさ『ブルーピリオド』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
監督:萩原健太郎 脚本:吉田玲子 音楽:小島裕規“Yaffle”
製作:映画「ブルーピリオド」製作委員会
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ワーナー・ブラザース映画 ©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会
◆公式 SNS
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Instagram:@blueperiodmovie #映画ブルーピリオド
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◆公式 HP:blueperiod-movie.jp
Tel:03-6712-5946
取材・記事:根市涼花
写真:オフィシャルスチール