【YOUTHClip CINEMA GUIDE vol.01】今週の映画セレクション/『爆弾』
今週から毎週月曜日にスタートする新連載、【YOUTHClip CINEMA GUIDE】今週の映画セレクション。
本コーナーでは、現役大学生で構成されたYOUTHClip編集部員が、今観てほしいおすすめの映画をセレクトし、紹介します。
記念すべき初回で取り上げるのは、日本のみならず世界中で大ヒット公開中の話題作、映画『爆弾』。
昨年10月31日に公開されるやいなや、「過去一面白いサスペンスを観た。」「日本の映画界が本気を出している!」といった絶賛の声が相次ぎ、口コミをきっかけに話題が拡大。観客動員数212万人、興行収入30億円を突破し、現在もなお記録を更新し続けている、2025年屈指の衝撃作です。
目次
1.キャストスタッフ&ストーリー
1.キャストスタッフ&ストーリー
出演:山田裕貴 伊藤沙莉 染谷将太 坂東龍汰 寛一郎 片岡千之助 中田青渚
加藤雅也 正名僕蔵 夏川結衣 渡部篤郎 佐藤二朗
原作:呉勝浩「爆弾」(講談社文庫)
監督:永井聡
脚本:八津弘幸 山浦雅大
主題歌:宮本浩次「I AM HERO」(UNIVERSAL SIGMA)
配給:ワーナー・ブラザース映画
◇ストーリー
街を切り裂く轟音と悲鳴、東京をまるごと恐怖に陥れる連続爆破事件
すべての始まりは、酔って逮捕されたごく平凡な中年男・スズキタゴサクの一言だった
「霊感で事件を予知できます。これから3回、次は1時間後に爆発します」
爆弾はどこに仕掛けられているのか? 目的は何なのか?スズキは一体、何者か?
次第に牙をむき始める謎だらけの怪物に、視庁捜査一課の類家は真正面から勝負を挑むスズキの言葉を聞き漏らしてはいけない、スズキの仕草を見逃してはいけない
すべてがヒントで、すべてが挑発
密室の取調室で繰り広げられる謎解きゲームと、東京中を駆け巡る爆弾探し
「でも爆発したって別によくないですか?」
—その告白に日本中が炎上する
2.『爆弾』の世界観に観客を引きずり込む衝撃の導入
酔って暴力をふるい、取り調べを受けることになった中年男・スズキタゴサク。背中を丸め、どこか委縮したその佇まいからは、周囲を持ち上げながら自分だけを一段下に置く、そんな自信のなさがにじみ出ています。
担当刑事・等々力に対し、「霊感で事件を予知できるから協力する代わりに金を貸してほしい。」冗談交じりにそんな話を持ちかける姿は、どこか親しみやすい“中年おじさん”そのもの。
しかし、その取調室の空気は一瞬で一変。スズキの予言どおり、歌舞伎町で大規模な爆発事件が発生したのです。それまでの親しみやすい中年男は、もはや存在しない。観客の中で、スズキは一瞬にして“怪物”へと姿を変える、その鮮烈すぎる導入こそが、本作最大の掴みです。
3.まさに”怪物級”俳優が繰り広げる圧巻の演技バトル
本編は、スズキと対峙する取調室、爆発が起きる都内各所、そして回想シーンという、おおよそ三部構成で展開していきます。その中でも物語の大半を占めるのは、閉ざされた殺風景な取調室。にもかかわらず、各爆発シーンと並ぶほどの見ごたえを生み出しているのは、本作で“怪物級”の演技を見せる俳優陣の存在にほかなりません。
コメディ作品で子どもから大人まで幅広い層に親しまれながらも、『さがす』『あんのこと』などでサスペンス界からも高い評価を受けてきた佐藤二朗が、本作でもスズキタゴサクという唯一無二の人物像を構築。その佇まい、語り口、視線の一つひとつが、取調室という密室に異様な緊張感を張りつめさせます。
さらに、話題のNetflixドラマ『イクサガミ』で異質なオーラを放ち注目を集める染谷将太が、最初にスズキと対峙する刑事として登場。彼とのやり取りを通して、物語は“爆破事件”だけでなく、刑事自身の過去や野方署の抱える闇にも踏み込んでいきます。
そして物語をさらに盛り上げるのが、スズキの前に立ちはだかる類家の存在。類家を演じるのは、『HiGH&LOW』シリーズや『東京リベンジャーズ』、ドラマ『特捜9』などで人気を確立、多くの映画・ドラマで引っ張りだこな俳優・山田裕貴。スズキと類家の応酬は物語上の駆け引きであると同時に、佐藤二朗と山田裕貴という俳優同士の、真っ向からぶつかり合う演技の殴り合いにも見えます。それまで自分のペースで刑事たちを翻弄し、場を支配してきたスズキが、類家の登場によって少しずつ主導権を失っていく過程は、息を呑むほどスリリングです。
類家は決して“正義のヒーロー”ではない。言動はどこか常識的とは言い難く、正論だけで動いている人物でもない。それでも、スズキに対して一歩も引かず、感情と理性の境界線を踏み越えるような向き合い方をする類家の存在が確実に彼を追い詰めていく。その姿は、善悪という単純な物差しでは測れない、極めて人間的な強さとして確立していきます。
怪物が、さらに上回る怪物と対峙した瞬間を目撃した衝撃は、容易に言葉にできない。スズキと類家の対峙は、本作を単なるサスペンスの枠から解き放ち、俳優の力によって成立する濃密な密室劇へと昇華させているのです。
4.だからZ世代にこの作品を届けたい
映画『爆弾』がZ世代に強く刺さると考えるのは、派手な”正義”やわかりやすい”悪”を描かない点にあります。
誰が完全に正しくて、誰が完全に間違っているのかが安易には判断できない世界で、言葉と沈黙だけを武器に、人と人が対峙していく。その息苦しさや張り詰める緊張感は、答えのない現実を生きる私たちの感覚とどこか重なって見えるのです。また本作では、暴力や次々と発生していく爆発事件以上に”会話”が人を追い詰めていきます。何気ない一言が空気を変え、立場を揺るがし、取り返しのつかない結果を招く。その怖さは、SNSを通して日常的に言葉を発信し、評価され、切り取られることに慣れているZ世代だからこそ、よりリアルに感じられるのではないでしょうか。
そして『爆弾』は、明確な答えや受け取りやすい感動、爽快感を丁寧に提示してくれる映画ではありません。
観終わったあとに残るのは、「あの言葉にはどんな意味があったのか。」「彼の本性は一体どれが正解だったのか。」という問いです。簡単に正解を与えられるのではなく、考える余白を残される、その体験こそが本作を”Z世代が今観るべき映画”にしています。
スクリーンから一瞬も目が離せなくなる137分間の緊張感、そしてエンドロールで流れる宮本浩次の「I AM HERO」とともに押し寄せる余韻には、思わず脱帽させられるでしょう。そのすべてを、ぜひ劇場で体感してください!
Tel:03-6712-5946
記事:根市涼花