2023.12.05
2022年の冬に放送され社会現象を巻き起こしたドラマ「silent」
主人公たちの出会う場所となった駅や、互いの心の穴を埋め合ったカフェには連日ドラマファンが訪れました。主人公・青羽紬が着用していた青のカーディガンはこの冬のトレンドとなり、街中に「紬コーデ」をする女性が溢れました。
そんな大人気ドラマを生み出した制作陣が再集結した話題のドラマ「いちばんすきな花」がフジテレビ系「木曜劇場」枠にて絶賛放送中です。
今作には「silent」同様、見落としてしまいがちな繊細な演出や制作陣のこだわりが見られます。
今年の冬を彩る今作の魅力と、テーマとなっている「男女の友情は成立するのか」という永遠の問いに対して考えていきます。
キャスト
この物語の主人公は潮ゆくえ(うしお・ゆくえ/多部未華子)、春木椿(はるき・つばき)、深雪夜々(みゆき・よよ)、佐藤紅葉(さとう・もみじ)という別々の人生を送ってきた4人の男女。そんな年齢も性別も、育ってきた環境も全く違う4人がある日、「唯一心を許せた異性の友達が、結婚を機に友達では無くなってしまった」、「結婚を考えていた彼女を、彼女の男友達に奪われた」、「友達になりたいだけなのに、異性というだけで勝手に恋愛と捉えられてしまう」、「友達の友達もみんな友達と思っていたが、気付けば本音を話せる相手はいなかった」と、それぞれの日常のなかで“友情”や“恋愛”にまつわる人間関係に直面してしまいます。境遇だけでなく、考え方も全く違う彼らが、ふとした出来事を機に巡り会い、“友情”と“恋愛”というテーマに自然と向き合っていくことになるストーリー。それまで別々のものだった4人の物語がいつしか重なり合い、1つの物語となっていくきます。4人の間に生まれる感情、そして4人を取り巻く人々との間に生まれる感情を丁寧に描きつつ、“本当に大切なものは何なのか”が紡ぎ出されていく、新たな時代の“友情”の物語であり、同時に“恋愛”も含めた“愛”の物語。くすっと笑って、ふわっと泣ける。愛すべき登場人物たちを優しい気持ちでずっと見つめていたくなる、そんな優しいドラマがこの秋、誕生します。
(公式より引用)
ドラマの世界に溶け込む優しいOST(オリジナルサウンドトラック)
今作のOSTを担当するのは「silent」同様、得田真裕さんです。
過去に「silent」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「グッド・ドクター」などの名作を手掛けています。
そんな得田さんの音楽の最大の特徴は”優しさ”です。
過去作をご覧になった方はお気づきかもしれませんが、得田さんがOSTを手掛けるものは人の優しさやあたたかさを感じられるような作品ばかりなのです。
恋愛に限らず家族愛や仕事仲間の絆など、目頭が熱くなるシーンで得田さんのOSTが流れると感情移入がより深まり思わず涙が溢れてしまいます。
特に視聴者の感情を揺さぶる場面でOSTは非常に重要な役割を担っています。OSTがなかった場合、急な場面展開や感情の変化によって視聴者の心が置いて行かれてしまうことがあります。
そんな置いて行かれた心をそっと後押ししてくれて、より深いところまで導いてくれるのがOSTです。
今作でも得田さんの手掛けるOSTがドラマの世界に新たな色を加えています。
歌詞がなくてもなぜか感情が伝わる、あたたかいOSTにも注目です。
説得力のあるお芝居とぴったりなキャスティング
今作は4人が主役という珍しい形で構成されています。
多部未華子さん、松下洸平さん、今田美桜さん、神尾 楓珠さんという実力と人気を持ち揃えたキャストが集まりました。
それぞれが自分自身へのコンプレックスや世の中に対して思うことなどを抱えながら生きているキャラクターを演じています。
どうしてこうじゃなくちゃいけないのか、その普通は誰が決めたのかと疑問を追及する芯の強さと、光の当たらなかった誰かの心に気付くことのできる優しさを持ち合わせた、潮ゆくえを多部未華子さんが演じます。制作陣の希望と、脚本家・生方さんの紡ぐ台詞に惹かれていた多部さんの思いが重なり、今回多部未華子さんの演じる潮ゆくえが誕生しました。
芯の強さと優しさの両立は難しく、バランスが崩れてしまえば誰の共感も得ることもできない孤独なキャラクターになってしまいますが、多部さんのお芝居によって、自身の共感できないことを否定ではなく疑問に捉える純粋さと相手に押し付けない優しさがしっかりと表れている愛すべきキャラクターとなっています。
他にも、4人が集うことになる家の家主であり、優しすぎるがゆえに大切なものがこぼれ落ちていってしまう春木椿を松下洸平さんが、大人数の盛り上げ役にはなれても一対一で話せる友達ができない佐藤紅葉を神尾楓珠さんが演じています。
4人それぞれが違う考え方を持ちながらも、否定することなくひたすらにうなずいて話を聞いてあげられる彼らだからこそ、紡ぐことのできる特別な関係性が生まれました。
「男女の友情は成立するのか?」という永遠のテーマをいつかドラマにしたいと考えていたプロデューサー・村瀬健さんが脚本家・生方美久さんに今回提案したことで「いちばんすきな花」は生まれました。
「男女の友情は成立するのか?」みなさんは成立すると考えますか?それとも成立しないと考えますか?いつの時代も意見が真っ二つに分かれる質問であり、今までもこのテーマに触れてきた作品は数多くあります。今作がそれらの作品と圧倒的に異なるのは、状況によって変化してしまう考え方を美化することなく正直に描いているところです。
第1話では、学生時代からの付き合いでゆくえにとって唯一の男友達だった仲野太賀さん演じる赤田に、「結婚するからもう会えない」「俺らにとっては普通でも周りから見たら怪しまれるのも分かる」と言われてしまったゆくえの絶望が描かれています。
この時、赤田の考え方は「男女の友情は成立する」であり、婚約者の気持ちを優先しつつもゆくえと縁を切ることに対して納得のいかない思いと名残惜しさがありました。
物語は進み第6話では、椿の家に保険の営業で訪れた赤田と、いつも通り椿の家に遊びにきたゆくえが遭遇し、大きな衝突が生まれます。椿とは友達であるというゆくえの主張を信じられない赤田は、心配を理由に椿を責めます。
ここで注目したいのは「男女の友情は成立する」という赤田の考え方が「男女の友情は成立しない」に変化していることです。
この展開には3つの可能性が考えられます
1,「男女の友情は成立しない」と考える妻と一緒に過ごしていくうちに価値観が変化し、自身の考え方も「男女の友情は成立しない」方に傾いた可能性
2,ゆくえと自身の友情は確かに成立していて「男女の友情は成立する」という考え方があたりまえになっていたが、客観視したときにその関係性は異常であると感じてしまった可能性
3,「男女の友情は成立する」という考えは変わっていないものの、自分以外の男友達と仲良くするゆくえをみて嫉妬した可能性
SNSでは、自分のことは棚に上げてゆくえと椿の友情を認めなかった赤田を批判する声が多く見られました。
私は2,ゆくえと自身の友情は確かに成立していて「男女の友情は成立する」という考え方があたりまえになっていたが、客観視したときにその関係性は異常であると感じてしまった可能性と3,「男女の友情は成立する」という考えは変わっていないものの、自分以外の男友達と仲良くするゆくえをみて嫉妬した可能性が高いのではないかと考察しています。
私自身、長年付き合いがあり2人で遊びにも行く関係性の男友達がいますが彼と恋愛に発展することは100%なく、互いに恋愛相談にのりながらずっと楽しく過ごしてきました。
成立している実体験があるので私は「男女の友情は成立する」派です。
ですがこれが、恋人から「男女の友情は成立するから女の子と2人で遊びに行ってくるね」と言われたりするようなことになれば話は変わってきてしまいます。
自分は上手くやれているはずなのに、相手の事となるとなぜか不安になってしまうのです。
このもどかしくて不甲斐ない心理に触れたのが今作です。
SNSで批判されていたように、矛盾が生じていることは分かっていてもこのような心理に陥る人は決して少なくないのではないでしょうか?
そして第6話のテーマは「友情にも嫉妬はある」です。
お姉ちゃんの方がお母さんにかまってもらっててずるい、私のたった1人の親友だと思っていたけど相手は親友がたくさんいた、など恋愛関係に限らず人間関係を築いていく上で嫉妬という感情は避けられないものです。
よって、心配を理由にゆくえ達を責めた赤田の心理としては、価値観の変化だけではなく自分だけがゆくえの男友達として成立する特別な関係性だと思い込んでいたがゆえに生まれた嫉妬があったのではないでしょうか。
このように「いちばんすきな花」は考察を楽しみながらも、今までの人生で触れてこなかった感情に対して向き合うきっかけをくれるあたたかいドラマです。
登場人物はみんな誰かに対する思いやりや、優しさ、愛を持っています。
不器用がゆえにそのあたたかさが、すれ違ってしまったり上手く相手に届かないこともあるけれど、そんな人生にもちゃんと意味があると思わせてくれます。
非日常的な出来事ではなく、一度は誰もが経験したことのあるような痛みに触れていることで多くの人の共感と支持を集めています。
心にたくさん刺さっていても気付かないふりをしていた、小さなトゲをひとつずつ抜いてくれるような優しいドラマになっているので、今年の冬は「いちばんすきな花」をみて皆さん心をあたためましょう!