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【YOUTHClip CINEMA GUIDE vol.08】今週の映画セレクション/『ファーストキス 1ST KISS』

2026.03.02

  

 

 

週月曜日にお届けする連載企画【YOUTHClip CINEMA GUIDE】今週の映画セレクション。
本コーナーでは、現役大学生で構成されたYOUTHClip編集部員が、いま観てほしいおすすめ映画をセレクトし、紹介します。

今回取り上げるのは、2025年2月に公開され、3月6日(金)よりプライムビデオにて配信が開始される映画『ファーストキス 1ST KISS』。

『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』や『花束みたいな恋をした』など、“坂元節”とも称される唯一無二の世界観で多くの人を魅了してきた坂元裕二が脚本を担当。坂元作品の常連である松たか子、そして本作が初タッグとなる松村北斗(SixTONES)が最高の化学反応を見せた傑作です。

目次

 

1.キャストスタッフ&ストーリー

2.坂元脚本が魅せるセリフの数々

3.タイムスリップだけれどファンタジーではない

4.だからZ世代に届けたい

1.キャストスタッフ&ストーリー

 

 

出演松たか子/松村北斗

吉岡里帆/森七菜

YOU/竹原ピストル/松田大輔/和田雅成/鈴木慶一/神野三鈴

リリー・フランキー

脚本:坂元裕二

監督:塚原あゆ子

配給:東宝

 

◇ストーリー

 

もう一度だけ、会いたい人はいますか?
結婚して15年になるカンナは、ある日、夫の駈を事故で失ってしまう。いつしか夫婦生活はすれ違っていて、離婚話も出ていたが、思ってもいなかった別れ。しかしカンナは、駈とこちらも思ってもいなかった再会を果たす。しかもそこにいたのは、初めて出会ったときの駈。
ひょんなことから、彼と出会った15年前の夏にタイムトラベルしてしまったカンナは、若き日の駈を見て思う。やっぱりわたしはこの人が好きだ。まだ夫にはなっていない駈と出会い、カンナは再び恋に落ちる。
時間を行き来しながら、20代の駈と気持ちを重ね合わせていく40代のカンナ。事故死してしまう彼の未来を変えたい。過去が変われば未来も書き換えられることを知ったカンナは、思い至る。わたしたちは結婚して、15年後にあなたは死んだ…。だったら答えは簡単。
駈への想いとともに、行き着いた答え。
わたしたちは出会わない。結婚しない。
たとえ、もう二度と会えなくてもーー 。

2.坂元脚本が魅せるセリフの数々

坂元裕二の脚本の魅力は、何気ない日常のなかに潜む共感性の高いセリフと、緻密に張り巡らされた伏線が回収されていく巧妙なストーリー構成にあります。その特色は本作にも存分に表れており、「あの日出会って好きになったこと、それが寂しさの正体です。」「君は、柿ピーの柿が好きで、僕はほら、ピーナッツが好き。つまり、君のことが好き。一生一緒にいたい。」など、登場人物それぞれの感性がにじみながらも、真っ直ぐに想いが届く言葉たちが作品を構成していきます。また、タイムスリップを通して変化していく夫婦の関係性を描くため、多くの伏線が丁寧に組み込まれています。なかでも圧倒されたのが、物語冒頭に登場する“餃子”の存在です。カンナが、注文したことすら忘れてしまうほど昔に頼んだ“3年待ちの餃子”。着払いの料金を支払い、受け取る何気ないワンシーン。しかしタイムスリップを繰り返し、かつてとは違う15年を歩んだカンナと駈が同じ日に戻ったラスト、再びあの餃子が届きます。

ただし、そこには2つの違いがあるのです。ひとつは、着払いではなく事前に支払いが済んでいること。もうひとつは、カンナにその餃子を注文した記憶がないこと。その違いは、新しい世界線ではカンナではなく駈が餃子を注文していたことを示唆しています。「美味しいものを一緒に食べたい」という、恋愛の原点ともいえる感情が、さりげなく、しかし確かに描かれているのです。

たったひとつの餃子で、ここまで物語を語らせる坂元脚本。改めて、その緻密さに脱帽しました。

 

3.タイムスリップだけれどファンタジーではない

亡くなった夫を救うためにタイムスリップし、未来を変えようと奮闘する物語、その説明は間違ってはいません。しかし、本作が本当に伝えようとしているのは、そこではないように思います。幾度となくタイムスリップを繰り返した末に、2人がたどり着いた答え。それは、出会いをなかったことにすることでも、死の運命を回避することでもなく、”今をどう生きるか”を選び直すことでした。15年後に駈が亡くなるという未来は変えられない。けれど、その15年をどのように過ごすかは変えられる。互いの欠点ばかりに目を向け、価値観の違いからすれ違ってしまった結婚生活を、もう一度やり直すことを選んだのです。カンナがタイムスリップを繰り返して自分を救おうとした事実は、駈の記憶にだけ残ります。自らの命のタイムリミットを知りながら、それでも彼は”選び直した15年”を生きていくことになるのです。

硯が残した手紙には、
「君と出会える人生でよかった。君を好きになる人生で本当に良かった。」
「結果を変えることは出来なかったけど、僕は人生を変えることが出来た。」
と綴られています。

未来そのものは変えられなくても、向き合い方は変えられる。結末は同じでも、その過程は選び直せる。本作が描いているのは、タイプスリップが生み出す奇跡の物語ではなく、きわめて現実的な希望なのだと思います。いつ大切な人と別れることになっても後悔しないように、“今”をどう生きるか。そんな問いを改めて向き合うきかっけをくれる、そんな儚く、尊い作品です。

 

4.だからZ世代に届けたい

長く連れ添い、すれ違いを抱えた夫婦の物語。そう聞くと、Z世代のみなさんにとっては少し遠い話に感じるかもしれません。けれど本作が描いているのは、決して“夫婦”だけの物語ではありません。これは、恋人同士にも、友人にも、そしてこれから誰かと人生を共にしていくすべての人に重なる物語です。どれだけ近い存在になっても、恋人はあくまで他人同士。生まれ育った環境も、価値観も違う2人が同じ未来を歩もうとすれば、衝突や葛藤が生まれるのは当然のことです。

大切なのは、その違いを否定するのではなく、理解したいと思えるかどうか。そして、すり合わせながらでも一緒にいたいと願えるかどうか。その思いやりの積み重ねこそが、愛を育てるのだと、この作品は確かに教えてくれます。未来そのものを変えることはできないかもしれません。けれど、今の自分の選択や向き合い方はいくらでも変えることができる。関係を終わらせることもできるし、もう一度選び直すこともできる。遠い未来の自分が、過去を振り返ったときにちゃんと向き合ったと思える生き方をすること。
この物語は、きっと今を生きるZ世代の心にもまっすぐ届くはずです。

 

Tel:03-6712-5946

 

記事:根市涼花

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